ある妖怪のおはなし

脚本:ゴージャス村上
演出:浅野泰徳(ジャングルベル・シアター)

ライス
若月
林大介(かたつむり)
インポッシブル
ササキリナ

「俺の頭、アイスじゃねぇぞ!」

土曜公演の昼夜を見に行ってきました。神保町花月に書いてある二行のあらすじが話の全てで、モグラと人間のハーフである妖怪のモグちゃんと科学者になりたい心優しい少年タダシとの交流を描いた短いお話でした。話はベタなものほどシンプルな方がまっすぐ伝わるものだと思うので、今回のお話は実にシンプルな構成でいいなぁと思いました。
ですが、モグちゃんとタダシの話以外にタダシの兄洋一を中心にした村の青年五人の話とモグちゃんの産みの親であるサワキの野望が絡んでいたため、それぞれのクライマックスへ行き着くまでに登場人物それぞれの背景の描写が少なく、関係性や個人の思いが伝わってこず、急な展開に見えてしまいました。説明があった部分もあったのですが、一言の台詞ですましてしまうには勿体なかったり足りなかったり。特に五人の間にある過去の確執、そこにある洋一の思い・葛藤、サワキの背景など、後半の核の部分に響いてくる部分は丁寧に伝えてほしかったなというのが大きな感想です。お話そのものはすごく大好きだったので、そんなことをいっぱい考えてしまいました。切なくて悲しいですが、とても優しいお話でした。モグちゃんの目から最後に流れたものは「優しさ」で、人間になれた喜びと共にモグちゃんは死んでいくのです。こんな切なくて悲しいことはない。そして、大きくなったタダシは科学者になってモグちゃんを復活させるのです。こんな優しさ、かっこよすぎる。


モグちゃんを演じれるのは関町さんしかいないんでしょうね。すごく可愛かったなぁ。いや可愛いんですよね。それがすごい。可愛いのに、殺しちゃえばいいじゃん!と無邪気に言って優しさの欠け方を表現できちゃうのが、関町さんの演技力。さすがです。
反比例するようにガチガチの悪役だったサワキの田所さん。笑いながらモグちゃんを撃つシーンにはにやにやしてしまいました。最初から怪しかったので黒幕だったなんてまさか!みたいな意外性はありませんでしたが、そこが大事な話ではない気がするんでいいかな、と思いつつ。ただサワキの過去や目的はもっと知りたかったなぁ。
ライス二人のシーンは、本当に切なくてギュッとなりました。モグちゃんが「おとーさん!」と駆け寄るのがもう切なくて切なくて。サワキがまず腕を撃って足を撃ってじわじわ殺していくところも、その後モグちゃんが死んでいくのを震えながらもサワキが笑ってみているところも、たまりませんでした。私は田所さんの細かい表情の演技がとても好きです。モグちゃんを殺したとき、怖がっていた顔がゆっくりと笑顔になるのを見て、再確認できました。嬉しいです。


タダシを演じたササキさんが、本当に、本当に素晴らしかった!!少年らしいストレートな感情をたっぷり込めた台詞に撃ち抜かれてばかりでした。涙腺に届くほどの感情をぶつけれるなんてすごい力です。特にモグちゃんが死ぬシーンにやられっぱなしでした。最初は優しいけど弱々しいタダシも、最後には兄に強い調子で意見を言える。素敵な男の子でした。きっとこれから神保町にひっぱりだこになるに違いないですね。楽しみです!
タダシの兄洋一を演じた林さんの、随所でふざけてもふざけても締めるところでは全くぶれない仕上がりはなんなんでしょうか。比重として五人のシーンの方が上だったので、あまり兄らしいシーンはありませんでしたが、最後のモグちゃんとタダシのシーンに洋一だけ残り、成長した弟を見つめる様子がとても好きでした。長台詞を自分の間でしっかりと聞かせれちゃうのが、相変わらずの仕上がりでたまりません。
クライマックスが兄→弟の順で続き、泣き方が真逆なのもいいなぁって思いました。感情を爆発させて泣くタダシと、大人だからこそ感情を抑えて気持ちを伝えながら泣く洋一。個人的に兄弟だけのシーンがエンディング以外にもあったらよかったなぁーと思うくらい、この兄弟が好きでした。優しい兄弟ですよね。


洋一の友達の若月とインポッシブル。
徹さんの熱い演技には嘘くささがなくてまっすぐ届きますし、集中すれば涙を出して泣けちゃうってそれはもう役者さんです亮さん。洋一の言葉でイノとヒルを許せなかったのは、洋一への優しさでもあるよなぁとぼんやり思いました。
向こう見ずで勢いで進んでいく井元さんのイノに少し気弱で後ろから着いていく蛭川さんのヒル。二人の悪事がばれたときの三人に対しての「今更友達面すんなよ!」に、二人の過去の壮絶さを感じてハッとしました。


そしてシークレットゲストのしんじさん。モグちゃんの裏の顔。最初こそ「しんじさん!?」ってなっちゃって笑ってしまいますけど、叫びにちゃんと意味があるように感じてからはうわーっとなってばかりでした。最後、関町さんとしんじさんが入れ替わりで葛藤する様には、叫びの中の苦しみに目が離せませんでした。


元が一時間の公演を笑いどころで一時間半に延ばしただけありまして、おふざけもなかなかの割合でした。特にイノを武器で洋一を殴るところは日を追うごとにヒートアップしており、土曜二回目のバットの時点でなかなかでしたが楽はスコップだったという。林さんの頭は相変わらず狂ってますね。井元さんお疲れ様です。「タダシ、兄ちゃんすべっちまったよ」だけで全部なんとかできると思ってはいけません。サワキの「茶番は終わったかね?」の無駄なセクシーポーズと、またイノだイノだったやっぱりイノだった違うかなと思ったけどイノだったもしつこくて好きでした。関町さんの蛇口の多用ぶりには、お気に入りなことがどうでもいいくらい伝わってきまして、使用方法もまー変態的だったわけですが、それでもモグちゃんは可愛かったなぁ。腹立つわぁ。

この公演について、お友達とたくさん話しました。飽きもせずたくさん話しました。たくさん話せたということは、この公演からたくさんもらったのです。どうやら大好きな公演だったようです。素敵なメンバーによる心に残る公演でした。